香木と香材の種類~ひとりでも楽しめるお香道~

香木の種類とお香の原材料

香木のルーツは流木

お香の原材料についての説明です。お香は香料と保香材、基底材とでできています。火を点けて使うお香は線香という棒状のものとうずまき状のもの、焼香と抹香とがあります。焼香(しょうこう)は香木の木片をを刻んだもので主に沈香と白檀、丁子、麝香と龍脳の五種類があり安価な木材も混ぜられてます。使った香木の種類によって「三種香」「五種香」「十種香」などと呼ばれます。抹香(まっこう)時間を測るための道具だった常香盤や時香盤に使われていた粉末状のお香です。温めて使うお香には香木と煉香、印香があります。煉香ははちみつなどで香料を丸薬のように丸めたもので半生です。印香は香料の粉末を押し固めたもの干菓子のような形をしています。臭い香や塗香(ずこう)とは、火を使わないお香で衣服に身に着けたり体などに塗り込んで使います。手紙やしおりにつけるお香を文香(ふみこう)といい、飾って香らせるお香を掛け香(かけこう)といいます。天然の香料と基底材を混ぜ合わせると線香は茶色になります。緑色や紫色や桃色の線香などは人工的に着色したものです。

お香の香りは、嗅覚を通じて古い脳である大脳辺縁系に通じ直接本能に働きかけリラックスする作用があります。仏教でお香を焚く理由は自分が香りを嗅いで楽しむためではなく仏様に香りをお供えする意味を持っています。

目次

線香の保存方法

お香は植物や動物由来の物質からできていますので、そのままではカビが生えたりして微生物に分解されてしまいます。お香を保管するには湿気が少なく虫が寄り付かないようにしなければいけません。人口の香料を使った線香は香りが数年で消えてしまいます。また、お香の香りは移りますので臭いが移らないようにして保管します。お線香の基底材の椨(たぶ)は五年ほどで劣化してしまいます。

沈香(じんこう)

沈香とは、ジンチョウゲ科アキラリア属・ゴリスチラス属の常緑香木の樹脂が微生物の働きで変質したもので英語名をアガーウッドといいます。沈香の主な産地はインドネシア、マレーシア、ベトナム、タイ、ラオス、カンボジア、インドのアッサム地本、海南島などです。このアガーウッドは成木になるまで二十年かかります。沈着凝集が始まり沈香が出来上がるまでにさらに五十年かかります。高品質な沈香は百年、百五十年はかかるといわれます。乱獲されたため、現在はワシントン条約の附属書Ⅱに指定されています。

沈香にはシャム沈香とタニ沈香という呼び名があります。シャム沈香はシャム国産という意味でインドシナの島々で産出された沈香です。タニ沈香はジャワ島やボルネオ島などインドネシアの島々で産出された沈香です。

沈香は中国で珍重され玄宗皇帝と楊貴妃の愛を育んだ興慶宮の沈香亭が有名です。建材に沈香と白檀を使い、壁には麝香や乳香が塗りこめられ、沈香で作られたお風呂があったなどと言い伝えられています。

伽羅(きゃら)

伽羅の木はジンチョウゲ科アキアリア属・ゴリスチラス属の常緑高木でベトナムが原産です。伽羅の主な産地はベトナム中南部です。

伽羅は沈香の中でも最高級のものに与えられる名称です。伽羅の含油量は50%を越えます(沈香は38%が最高です)。熱を加えなければ香りがしない沈香に比べ、伽羅はそのままでもたいへん良い香りがします。

白檀(びゃくだん)

白檀(びゃくだん)
白檀はビャクダン科半寄生の常緑高木の幹や根の心材で英語名をサンダルウッドといいインドのマイソールやインドネシアなどが産地です。

白檀は他の植物に寄生して栄養分を吸収しつつ自らも光合成をする半寄生植物です。白檀は種子のみで繁殖し挿し木や挿し穂で根付くことはありません。

白檀はお香の原材料だけでなく念珠や扇子の材料としても用いられています。

日本の庶民には沈香よりも安価な白檀のほうが身近で親しみがあります。

白檀は成木になるまで三十年かかります。

白檀は密閉して保存しないと香りが失われてしまいます。

桂皮(けいひ)

桂皮
桂皮はクスノキ科ニッケイ属の樹皮で英名をシナモンまたはカシアといいます。主な産地は中国南部、ベトナム、スリランカなどです。

桂皮は食材や漢方薬の材料として用いられ、お香の材料にも使われています。体を温める作用や健胃、解熱作用があります。桂皮は「種々薬帳」に記されています。お線香用の桂皮は広南桂皮(かんなんけいひ)が有名です。

丁子(ちょうじ)

丁子(ちょうじ)
丁子はフトモモ科チョウジノキの花蕾(からい)で英語名をクローブといいます。原産地はモルッカ諸島です。主な生産地はインドネシア、マレーシア、アフリカです。

丁子はチョウジノキの開花の直前の蕾を集めて乾燥させたもので香辛料として用いられます。丁子には防腐効果があり口臭を消したり虫歯の痛み止めにも使われました。現在も修行僧は含香(がんこう)として丁子を口に含みます。江戸時代に使われた鬢付け油「伽羅の油」の香りづけは丁子でした。丁子は染料としても使われ「香色(こういろ)」と呼ばれました。衣服に着ける匂い袋の「えび香」には必ずといってよいほど丁子が使われました。

大茴香(だいういきょう)

大茴香(だいういきょう)
大茴香(だいういきょう)はモクレン科のトウシキミの果実で英語名をスターアニスと言います。主な生産地は中国南部です。

大茴香(だいういきょう)はトウシキミの果実を乾燥させたもので、星形をすることから八角茴香(はっかくういきょう)と呼ばれます。さわやかな香りで香材としては香りの奥行きを広げる役割を果たします。中国では中華料理の香辛料として古くから使われています。杏仁豆腐の香りづけにも八角が使われます。

漢方薬としては去痰薬として大茴香(だいういきょう)が用いられます。

甘松(かんしょう)

甘松はオミナエシ科の多年草の根茎(こんけい)で英語名をスパイクナードと言います。甘松の主な産地は中国とインドです。

甘松(スパイクナード)は聖書でマグダラのマリアが死を予感したイエスのために高価で貴重な精油を買い求めて最後の晩餐の前にその精油をイエスの足に塗った奇跡の精油と言われています。

甘松はヒマラヤや中国の山岳地帯にしか生えない高山植物で日本でも平安時代の薫物の原料として記述されています。甘松は単体ではよい香りではないのですが、沈香と合わせると時間の経過とともに濃厚な香りに変化していきます。

木香(もっこう)

木香はキク科の多年生草本で、モッコウの主根を原材料とします。インドのカシミール地方や中国南部が主な産地です。

木香にはさまざまな種類があり、種類や産地で呼び名が異なります。雲木香、唐木香、広木香、青木香など。2mになるキク科の高山植物です枯れた後に根を掘り起こして乾燥させます。鑑真が日本に持ち帰った「唐大和上東征伝」の目録にも木香の名前が記されています。正倉院にある木香が日本最古の木香といわれます。

木香はさわやかな辛みと苦味があり多くは使いませんがお香づくりに欠かせない材料です。ワシントン条約で取引が禁止されています。

山奈(さんな)

山奈は香料です。ショウガ科バンウコンの根茎で別名バンウコン、カチュールスガンディといいます。主な産地は中国南部とインドです。山奈はバンウコンといいますが、ターメリックのウコンとは違います。ウコンという名前の植物は五十種類ほどあります。バンウコンは江戸時代に南蛮から伝わり山奈と呼ばれました。しかし山奈という日本の植物はバンウコンとは無関係の植物です。バンウコンはショウガのような爽やかな香りで他の香料の強烈な匂いをぼかす役割をして香りをなじませます。

鬱金(うこん)

鬱金(うこん)
鬱金は香料です。ショウガ科ウコン属のウコンの根茎で秋ウコンのことです。英語名をターメリックといいます。主な産地は中国南部やインドと台湾です。お香の原料としてのウコンは別名ターメリックといい秋に花を咲かせる「秋ウコン」です。生薬の成分量が多く苦味が強く、薬として用いられます。ウコンは現在、お香としてはあまり用いられなくなりました。ウコンは染料としてもよく用いられています。ウコンで染められた布には防カビ・防虫効果があり茶道具は骨とう品を包む布として重宝されます。中国やインド、スリランカなどではウコンは聖なる色として僧侶の衣に使われています。

霍香(かっこう)

霍香(かっこう)は香料です。排草香はシソ科のカワミドリの根で原産地はインドで英語名はパチョリです。主な産地はインドネシアやマレーシア、台湾や中国広東省です。シソの茎のようにさわやかで甘い香りです。硯で墨を擦った時の香りに似ています。西洋のアロマテラピーの精油のパチョリと霍香の香りは少し違います。霍香は薬草としても古くから痔の薬として軟膏に使われてきました。アロマテラピーではパチョリは皮膚を再生する効果があると認められています。お香の原料としては香りを引き出す役割として用いられています。

排草香(はいそうこう)

排草香は香料です。排草香はシソ科のカワミドリの根で原産地はインドです。英語名はパチョリ(patchouli)です。主な産地はインドネシアやマレーシア、台湾や中国広東省です。排草香は霍香(かっこう)と同じ植物です。地上部を霍香(かっこう)、地下茎を排草香(はいそうこう)といいます。排草香(はいそうこう)は霍香(かっこう)のさわやかな香りに加えてスパイシーで熟した香りがします。

零陵香(れいりょうこう)

零陵香(れいりょうこう)
零陵香はサクラソウ科の多年草の全草で英語名をフェヌグリークといいます。お香では香料として用いられます。イラン~インドが原産で主な産地は中国南部やアラビア半島です。零陵香は香りが強く、香辛料やハーブとして用いられます。日本のカレー粉の原料のひとつです。フェヌグリークは豆料理などのスパイスに用いられ、糖や脂質の代謝を改善する効果があり苦味があります。

乳香(にゅうこう)

乳香(にゅうこう)
乳香は香料です。乳香はカンラン科ボスウェリア属の常緑高木の樹脂です。英語名をフランキンセンスといい主な産地はアフリカは中近東です。カンラン科ボスウェリア属の木の幹に傷をつけて染み出たゴム状の樹脂が乳香です。樹脂が乳房からしみでる乳のように見えるため乳香といわれます。乳香はさわやかで優雅で奥行きのある香です。西洋では古くから儀式として用いられてきました。キリストが誕生した時に東方の三博士が捧げた三つの贈り物のひとつが乳香です。乳香は神聖な礼拝の象徴とされ、教会などで場を清めるために薫かれます。

龍脳(りゅうのう)

龍脳は香料です。龍脳はフタバガキ科の常緑高木で龍脳樹の結晶性顆粒です。英語名をボルネオールといい主な産地はインドネシアとマレーシアです。龍脳が採れる龍脳樹は幹の直径が1m以上、木の高さが50mに達する樹木で樹心部の割れ目のような空間に無色透明の龍脳の結晶ができます。龍脳は樟脳に似た優雅で強い香りです。唐の玄宗皇帝は楊貴妃のためだけに龍脳を使ったといわれます。

安息香(あんそくこう)

安息香はエゴノキ科エゴノキ属の常緑樹の樹脂で英語名をベンゾインといいます。主な産地はインドネシア、マレーシアおよび中近東です。高さ20m程になるエゴノキ科エゴノキ属の木の幹を傷つけて染み出た樹脂が安息香です。安息香の名前の由来は「息を安ずる香り」という説と、安息国パルティア(パキスタン)で使われていたお香なので国名に由来するという説があります。安息香はアロマテラピーではリラックスしたい時に用います。漢方薬では去痰薬として用いられます。バニラのような甘い香りがします。

お香では香料のほか、保香材として用います。

麝香(じゃこう)

麝香は保香材です。麝香とは、ジャコウジカの雄の生殖腺の分泌物で英語名をムスクといいます。主な産地はチベットや中国の広東省です。

麝香はムスクといい西洋の香水では有名な香料です。麝香は発情期のジャコウジカの雄の香嚢から採りますが、ムスクの香とは異なります。麝香の匂いは官能的な動物臭です。アルコールなどで1000倍に薄めて他の香料と合わせると調合した香料を濃厚で熟成したものへと変貌させます。

麝香は中国や朝鮮において漢方薬のほか、異性を誘惑するための香水として用いられてきました。

龍涎香(りゅうぜんこう)

龍涎香はマッコウクジラの結石で英語名をアンバーグリスと言います。龍涎香は海岸に流れ着く大きなロウ状の塊で長らく正体がわかりませんでした。中国ではこの大きな玉が謎めいていたたことから龍の涎の香と名付けられました。捕鯨の際にマッコウクジラの体内から同じ物が見つかったため、結石であることがわかりました。どうして香るようになるかはわかっていません。現在は合成香料で代用されています。

貝香(かいこう)

貝香は保香材です。アカニシ貝などの大型の巻貝などです。主な産地はアフリカの東海岸などです。貝香は巻貝の「蓋」を粉末にしたものです。保香材は、香を安定させて長持ちさせる効果があります。貝香の匂いはたんぱく質の匂いで他の香料にまぜると全体が引き締まった香になります。貝香は奈良時代には既に使われていました。

椨(たぶ)

椨はお線香やお香の基材です。クスノキ科タブノキ属の常緑高木で樹皮を用います。主な産地は南九州、中国、インドネシア、台湾、タイ、インドなどです。

椨の樹皮を乾燥させて粉末にしたものを水で練って粘着力を出したものを線香のつなぎとして用います。椨粉は線香を作るうえで欠かせない材料です。椨にはかすかに甘い香りがあり他の香料の邪魔をしません。

杉の葉(すぎのは)

杉の葉(すぎのは)
杉の葉は線香やお香の基材です。主な産地は日光や八女、三河などです。杉は滅菌効果があると信じられ、酒蔵の杉玉などに用いられてきました。杉の葉がなぜ線香の材料となったかはわかりませんが、日本に杉の葉は捨てるほどあることからコストを抑え価格を抑えることに繋がっています。杉線香は御寺などに行くと参拝客が煙を煽って身に浴びて祈っている光景をよく目にします。あの線香が杉線香といい香料のような香りはしない安価な線香です。私たちは安物の杉線香をありがたがってあおっていたのです(苦笑)

炭(すみ)

炭
炭は線香やお香の基材として用いられます。炭の原料はクヌギや樫の木のような広葉樹です。炭はお香の煙を少なくする効果があります。

お香の豆知識

防虫香のある香木は白檀、丁子、桂皮や龍脳などです。火を使わないお香の楽しみ方は煉香や塗香、匂い袋などで楽しめます。今は原材料も個人で買い求めることができますのでワセリンや各種オイルやはちみつ、蜜蝋などで煉れば簡単に煉香や塗香が作れます。

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参考書籍「お香と線香の教科書」愛知県線香卸組合(2015)

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